サッカーファミリーへの中間報告:読書感想
サッカーファミリーへの中間報告という本を読みました。
どんな内容?
内容は日本サッカー協会のガバナンスとコンプライアンスに関する問題定義となっています。
サッカーについては全く門外漢な筆者が、日本サッカー協会の田嶋会場に壊れて専務理事に就任したのち、同協会の規程類について調べたところ、2014年に行われた「JFAリフォーム」により定款との整合性がなくなってしまっており、その件について理事会で指摘したところ、日本サッカー協会の副理事長でJリーグのチェアマンである村井氏が、問題点には理解を示しながら、責任問題に話題を転嫁したうえで、現時点で何も問題が起きていないのだからことを荒立てる必要はないと発言されたことに関して憤っていることが主題です。
特に今の規程類は、定款で定めていることを完全に無視しているとのことです。
定款は日本国内法に基づき作られていますが、「JFAリフォーム」は、FIFAの要求に基づき日本サッカー協会の組織をリフォームする必要があったことから、定款の存在を完全に無視してしまっているとのことです。
どの組織でもある問題
筆者は本書の中で、定款と規定の齟齬は日本サッカー協会のようなしっかりとした組織がやるとは信じられない旨の記述があります。
しかし、日本相撲協会しかり日大然り、最近の組織の危機管理の問題は、こういった問題があらゆる組織にあることを暗示しているように思えます。
規程類を定めてもそれをきちんと運用していない、規程類はあくまでも組織内の決まりであって法律を上回るものではないことを理解していないなどの問題が根本にあるような気がしていましたが、本書は、日本サッカー協会における状況を、現役の専務理事が語っているということで、組織内の問題がどこにでもある可能性を示唆しています。
国際規格を国内に当てはめる問題
FIFAの要求は日本国内の法律を理解して作られているわけではありません。
日本どころか、各国の法律にすら配慮しているとは思えません。
同じような状況に国際規格のISOがありますが、ISOの場合、専門家が規格を日本語に翻訳する際に、日本国内法に則した内容内容に変更して行きJIS規格として制定します。
日本国内ではISO規格ではなくJIS規格を取得することになります。
日本サッカー協会も、FIFAの規格を翻訳するときに日国内方にきちんと当てはめるべきであり、もしFIFAの規格と国内法の両立がしにくい場合は、FIFAに状況を説明して理解を求めるべきでした。
そのことは、この本の筆者も本文中に指摘しています。
法律が一番重要
社内でどんな規則を作ろうと、日本では憲法が一番上位にあり、その下に法律や条例、局長通達があり、これらに基づいて会社は規則・規程を定めます。
これを理解していない会社が多いように感じます。
本来、法学部の学生や公務員の行政職員にとっては基本中の基本だと思うので、大きな会社であれば誰かが問題に気づくはずなんですが、これが今はやりの忖度というやつでしょうか、実際にはなかなか修正されないことが多いようです。
日本サッカー協会だって結構大きな組織ですから、法学部出身の職員だって、公務員出身のそれなりの地位のある職員だっているだろうに。
やっぱり「問題が起きていないのなら無理に帰る必要がない」ってことなんでしょうか。
そんなの、イエローカードどころか、レッドカードを突きつけられてもしょうがない気がします。
サッカーだって、選手が大怪我する可能性が高いからレッドカードやイエローカードが出ることもあるわけで、つまり、問題が実際に発生していなくても改善を要求することはあるわけです。
法学部や公務員出身の職員が、わかっているのに何も問題定義しないのは、法人の職員としてレッドカードを突きつけられても文句は言えない状況です。
本としての体裁をなしていないのが残念
最初は、タイトルについてあまり気にしなかったのですが、読み終わってわかったのは、本当に中間報告なんです。
ですから、この本は結論もありません。
日本サッカー協会にこんな問題定義をした、村井チェアマンに質問状を送った、で終了しています。
いろいろな本を読みましたけど、結論が出ない途中経過だけを報告した本は初めてです。
自分はキンドル版を購入しましたが、単行本でも販売していて、単行本の場合のページ数は206ページです。
全ページのうち本文はわずか37%で、あとは資料編となっています。
資料編は、筆者作成の日本サッカー協会への中間報告書とその添付資料及び日本サッカー協会の村井副会長に対する質問状などです。
ある意味本のタイトル通り「中間報告」です。
ドキュメンタリーのような、問題定義から結論までの内容を期待すると、完全な肩透かしをくらいます。
企業のコンプライアンスや法務担当者にオススメ
Kindle版で1,037円ですが、普通の人にはそんな価値は全くありません。
本を出版する場合は、読者となる人のターゲットをきちんと決めると思いますが、この本のターゲットがどの層なのかさっぱりわからないです。
通常は、こういった告白は、なるべく多くの人に広く知らしめるためにインターネットを使って無料で行うことが多いと思います。
あくまでも企業内での争いにとどめたい場合は、弁護士などを通じて企業に訴え出るでしょう。
こういった訴えを、本という形で、有料で出したことにすごく違和感を感じるわけです。
企業内でコンプライアンスや法務を担当している人は、会社内で規程の取り扱い方を勉強するのに良いと思います。